ご挨拶

九州大学・新炭素資源学拠点は、現在の世界が直面し、解決が求められている、地球規模の環境・エネルギー問題を背景にしています。現在確認されている埋蔵量から推定される可採年数は、石油が41年、石炭が133年、天然ガスが62年、ウランが85年しかありません。途上国の急速な経済成長を背景に、エネルギーの安定供給と地球温暖化問題への対応が、喫緊の課題となっています。われわれは、これらの資源のうち、石油、石炭、天然ガス、にバイオマスを加えて炭素資源と総称し、本拠点の対象としています。これらは、燃焼により確実にエネルギーが得られる資源であり、同時に、人類の生活に必要不可欠な衣類、プラスチック等の原料として他に代替のない重要な資源です。一方、地球温暖化の原因であるCO2を発生する欠点を持っています。

 

2010年、日本政府はエネルギー基本計画の中で、CO2を排出しない低炭素電源として原子力発電の推進をあげましたが、2011年3月11日の東日本大震災と福島第一原子力発電所事故により見直しが検討されています。再生可能エネルギー資源、新エネルギーの普及推進が求められていますが、近未来において炭素資源の代替となるほどの発電量は期待できず、この結果、近未来的の現実解としての炭素資源の「賢い利用」の重要性は増しています。

 

石炭の利用は、炭素資源問題の象徴の一つです。石炭は、石油・天然ガスと比較して、地球に偏在せず、長い可採年数をもつという利点を持っています。他方、石炭は固体であるがゆえに、その利用にあたっては、輸送から燃焼に至るまで、石油よりも複雑な技術を必要とします。また、CO2の発生率が高く、窒素酸化物や硫黄酸化物等の環境汚染物質も多く発生します。言い換えれば、エネルギー資源としての石炭の高度利用は、石炭が解決すべき問題を多く持つがゆえに、克服すべき具体的課題を提供していることになります。

 

エネルギーの視点からは、石炭ガス化に代表される石炭の環境汚染なき効率的利用、環境負荷なき資源開発、効率的資源転換、ゼロエミッション等の科学技術の研究成果は、石油や天然ガス、非在来型化石資源、バイオマスの利用に際しても応用でき、かつ、天然ガスやバイオマスとのベストミックス、再生可能エネルギーや原子力等、他の資源をあわせて考えた際のベストミックス指針を産みます。

 

環境の視点からは、石炭の利用は、温暖化の原因となるCO2発生、大気や水汚染原因となる硫黄、窒素酸化物等の発生を生み、国境を越えた環境汚染を引き起こしています。しかしながら、環境は諸因子がさまざまに絡み合って作り出されることから、その解決には、石炭や炭素資源に関わる環境問題の技術開発に狭く限定せず、世界全体の環境経済・政策論から、地球規模の環境変動の予測・実測、現実の環境問題対策までを、総合的にとらえ、研究し、問題解決を図る必要があります。

 

さらに、炭素資源の環境負荷なき効率利用が果たせたとしても、やはり炭素資源に限りがある以上、エネルギー利用・炭素資源利用の量を必要最低限に抑え、人類の豊かな生活を持続可能なものにしていくためには、革新的な省エネルギー科学技術の一層の推進が必要です。炭素資源は化学原料でもあることから、低消費エネルギー社会を支える炭素資源由来の材料開発は、そうした技術のイノベーションを創出する鍵と考えられます。

 

これらの視点は、本拠点の目指すところが狭い石炭科学ではないことを明確に示しています。本拠点では「石炭エコイノベーションの創造」を拠点活動の象徴として表現し、総合的・多角的視点から、炭素資源の効率的利用、地球環境保全、そして、低消費エネルギー社会を支える新科学技術を融合させた新学術領域「新炭素資源学」の創造を目指します。こうした目的の達成には、産官学の炭素資源最先端研究、地球環境研究に精通し、次世代の資源・エネルギー・環境問題に実践的対策を立てることのできる、国際性と現実対応能力に優れた人材の育成が必須です。本拠点では、2大学8専攻の教員が国際連携・地域連携・産学連携を取り入れた人材育成プログラムを実施します。特徴あるカリキュラムで教育された博士課程人材や、拠点所属の博士研究員等若手研究人材により、独創的な先端研究を生み出していくとともに、これらの人材が学術研究機関、企業、および国際機関で活躍・飛躍できるような機会の拡大を図ります。

 

資源エネルギー問題・環境問題は「人類の未来に警鐘を鳴らす暗い話題」でしょうか?いや、そうした問題を中心にして、経済、資源、化学にわたる幅広い分野の若手が集まる拠点、アジアを中心に多くの国際人が集まる拠点、そして、先端研究がイノベーションに直結する拠点はむしろ、面白くやりがいのある研究を行うとともに、未来を創造していく場であるといえます。その主役は、若い大学院生や、博士研究員の皆さんであり、拠点は彼らを全力で支援します。